
世界中が新型ウィルスの脅威に翻弄されています。
そんな中でも春になれば木々は芽吹き、花は咲き、鳥は美しい声で鳴いていました。
その「いのち」の輝きに多くの人が感動したことが日仏双方の俳句に表れていました。
また日本語を第一言語としない方たちにとって、日本固有の定型詩を詠むことはとても難しいことだったはずです。
しかし、「型」の国日本を理解していただくには、大変意義深いものだったと思います。
俳句は一期一会の文学です。たまたま出会った花鳥風月に、今日あること、今生きていることの大切さを実感し、
対象の「いのち」と共に、自らの「いのち」を輝かせていました。
日仏の「いのち」の響詠は、離れた地で生きる人々へのエールの交換でもありました。
Au chant des grillons
tu trouveras un abri
Voyageur masqué
虫の音に宿らむマスクせし過客
(むしのねにやどらむマスクせしかかく)
Justine BOHE (ジュスティンヌ・ボー)
Var, France (フランス ヴァ―ル県)
Un chocolat chaud
Quelques mots doux échangés
par delà l’écran
ココア手に画面越しなる睦み言
(ココアてにがめんごしなるむつみごと)
Mamounette (マムネット)
Somme, France (フランス ソンム県)
Le printemps s'éveille
J'imagine les sourires
derrière les masques
春めいてマスクの奥の微笑かな
(はるめいてマスクのおくのびしょうかな)
Ortoolski (オルトゥルスキ)
Puy-de-Dôme, France (フランス ピュイ・ドゥ・ドーム県)
Masque un peu défait
pour mieux sentir le parfum
du pamplemoussier
マスクややずらして香る文旦樹
(マスクややずらしてかおるぶんたんじゅ)
Florence PLISSART (フロランス・プリサール)
Bruxelles, Belgique (ベルギー ブリュッセル)
●:審査員賞、●:みんなの一句
俳句の定型を最大限に守りながら、パンデミックの状況に見合った季語を選び、そして心をこめて、多くの参加者がすばらしい句を応募してくださったことは、嬉しい驚きでした。
ものの香りの繊細さや虫の音、微笑みの美しさをマスクが遮ることはない。スズランの花もソーシャルディスタンス(社会的距離)によって感じる孤独を和らげてくれるものなのかもしれません。(クリスチャン・フォール氏)
Sous un ciel blanc
reflet d'un soleil en verre
Printemps virtuel
ガラス陽に映えて仮想の花曇り
(ガラスひにはえてかそうのはなぐもり)
Amélie COELHO (アメリ・コエロ)
Hauts-de-Seine, France (フランス オー・ド・セーヌ県)
Troisième (中3)
Sous les belles fleurs
la pluie tombait doucement
Le chaton dormait
花のかげ雨和らいで寝る仔猫
(はなのかげあめやわらいでねるこねこ)
Kiara HUN (キアラ・ウン)
Gironde, France (フランス ジロンド県)
Cinquième (中1)
Cette pandémie
a sûrement libéré
cette fleur perdue
パンデミック虚ろな花を解き放ち
(パンデミックうつろなはなをときはなち)
Colleen KADERT PAULTRET (コリン・カデール・ポルトレ)
Gironde, France (フランス ジロンド県)
Quatrième (中2)
Cette douce brise
qui caresse mon visage
Belle liberté
頬なでるそよ風自由の美しき
(ほほなでるそよかぜじゆうのうつくしき)
Aela MANDELERT (アエラ・マンデレール)
Finistère, France (フランス フィニステール県)
Première (高2)
●:審査員賞、●:みんなの一句
新型コロナという名の国際人と俳句という日本人の出会い。2020年の春は長い物語の始まりでした。中高生にとって春は「ヴァーチャル」だった一方、「パンデミック」はリアルだった。パリの「窓辺」で退屈なときを強いられたとしても、「沈黙」という「自由」は、ちょうど詩歌というものがそうであるように、いつだって「黄金」にも値するものです。(ニコラ・グルニエ氏)
Assis sur ma chaise
j’écoute le chant du vent
J’écris ce poème
風の歌椅子で聞きつつ詩作かな
(かぜのうたいすでききつつしさくかな)
Caspar BOUTIN (キャスパール・ブタン)
Paris, France (フランス パリ)
CM2 (小5)
Le four sent très bon
J'ai besoin de mes amis
Le Printemps se fane
友を待つオーブン香り春は過ぎ
(ともをまつオーブンかおりはるはすぎ)
Salomé COELHO (サロメ・コエロ)
Hauts de Seine, France (フランス オー・ド・セーヌ県)
CM1 (小4)
Ôhé ! Les abeilles
Butinez un cerisier
pour mes tartinettes
パンに塗る蜜を桜に摘め蜂よ
(パンにぬるみつをさくらにつめはちよ)
Eliah LESNARD (エリア・レナ―ル)
Finistère, France (フランス フィニステール県)
CM1 (小4)
Au temps du virus
les heures comptent des jours
Chaleur étouffante
ウイルスの日々長くして蒸し暑い
(ウィルスのひびながくしてむしあつい)
Lina REKIK (リナ・レキック)
Paris, France (フランス パリ)
CM2 (小5)
●:審査員賞、●:みんなの一句
新型コロナ危機のきびしい状況のなかで、小さなみんなが友だちを心配する気持ちや、外にでられない悔しさ、そして、つらくても負けない元気といった自分の思いを、俳句のリズムにのせて伝えようとがんばったことに、感動しました。ある子の句にこんな言葉がありました。「命の575」。
大切なことはひとつの困難をみんなで共有するということ、現実をしっかりみつめ、みんなで考えられるということ。それは伝染病という大きな問題も、俳句をつくることも同じです。
道は開ける。子どもたちの句からはそんな勇気がわいてくるものです。(川崎康輔氏)
満開の桜スマホで送り合い
(まんかいのさくらスマホでおくりあい)
On se les partage
à l’aide de nos smartphones
Cerisiers en fleurs
亀川富雄 (Tomio KAMEKAWA)
日本 大阪府 (Ôsaka, Japon)
蔓薔薇や母に食事を置き帰る
(つるばらやははにしょくじをおきかえる)
Repas déposé
chez ma mère, puis je rentre
Le rosier grimpant
佐藤昭子 (Akiko SATO)
日本 愛媛県 (Ehime, Japon)
日仏を俳句で結ぶ去年今年
(にちふつをはいくでむすぶこぞことし)
L’art du haïku
lie le Japon et la France
Au seuil de l'année
新濃健 (Takeshi SHINNOH)
日本 東京都 (Tokyo, Japon)
●:審査員賞、●:みんなの一句
●:審査員賞
●:みんなの一句
コロナ禍でいつにも増して時間と空間の隔たりを感じた方が多かったことと思います。しかし、その隔たりを桜や薔薇、草の花、沙羅といった花々が繋ぎ、夜長や秋の暮という静かな時間に、亡き人に、寄り添う人に、思いを込めて俳句を詠んでいます。直接的に「祈り」という言葉は入っていませんが、句の余白に「祈り」を感じました。どの句もコロナ禍だったからこそ成った俳句であり且つ普遍性があります。(黛まどか氏)
遠くから手を振る友や鳳仙花
(とおくからてをふるともやほうせんか)
L’ami me salue
agitant sa main de loin
Fleur de balsamine
加藤光 (Hikaru KATO)
日本 神奈川県 (Kanagawa, Japon)
中3 (Troisième)
秋近し最後の一球追いにけり
(あきちかしさいごのいっきゅうおいにけり)
La dernière balle
de baseball pourchassée
L'automne s'approche
髙橋聡太 (Sota TAKAHASHI)
日本 神奈川県 (Kanagawa, Japon)
中3 (Troisième)
凩や壁を隔てて二人かな
(こがらしやかべをへだててふたりかな)
Le mur nous sépare
pourtant nous sommes bien deux
Le vent de l’hiver
高橋森蔵 (Morizo TAKAHASHI)
日本 神奈川県 (Kanagawa, Japon)
中3 (Troisième)
●:審査員賞、●:みんなの一句
●:審査員賞
●:みんなの一句
明るく前向きな句が多く、青春性を感じました。金木犀の香る道を今日も歩いて通えるという幸せ、マスクをしていても笑顔でみんなと会える幸せ、最後の一球を全力で追いかける幸せ。或いは、隅田川の花火、鈴虫を友人と聞きながら過ごした日々などの思い出も、今日があるからこそ輝くのです。また凩の中壁を隔てている二人の気息や遠くから友人が手を振る姿、ゆっくり手紙を書くことも、コロナ禍での生活だったからこそ感じ取った機微ではないでしょうか。(黛まどか氏)
渡り鳥ぼくのおもいをあそこまで
(わたりどりぼくのおもいをあそこまで)
Oiseaux migrateurs
emportez mes sentiments
jusqu'au loin là-bas
藤本暖大 (Haruta FUJIMOTO)
Paris, France (フランス パリ)
小5 (CM2)
思い出すあの日の笑顔年賀状
(おもいだすあのひのえがおねんがじょう)
Elle me rappelle
nos sourires d'autrefois
La carte de vœux
夫婦岩羽南 (Hana MYOTOIWA)
Yvelines, France (フランス イヴリーヌ県)
小5 (CM2)
会いたいないつ会えるかな春の風
(あいたいないつあえるかなはるのかぜ)
J'aimerais te voir
Quand pourra-t-on se revoir ?
Le vent printanier
渡辺紗生 (Saki WATANABE)
Paris, France (フランス パリ)
小4 (CM1)
●:審査員賞、●:みんなの一句
●:審査員賞
●:みんなの一句
友達を詠んだ句が多く、子供たちにとって友達と過ごす時間がいかに大切かをあらためて思いました。パソコンの画面越しに会っても、子供の想像力は大空を超えて風に乗って友達に会いに行きます。「春風」「南風」「春の空」「春の朝」など、明るい季語が多く、子供の気持ちはコロナに負けていないことに気づかされます。(黛まどか氏)
夕焼けが恋しい話つれて来た
(ゆうやけがこいしいはなしつれてきた)
Le soleil couchant
a amené avec lui
l'amour nostalgique
Hazman BAHAROM (ハズマン・バハロム)
Selangor, Malaisie (マレーシア セランゴール州)
思い出す桜の横で聞いた歌
(おもいだすさくらのよこできいたうた)
Je me souviens de
ce chant que j'ai écouté
sous les cerisiers
Timothée BERNARD (ティモテ・ベルナール)
Seine-Saint-Denis, France (フランス セーヌ・サン・ドニ県)
ツバメ達飛んで踊って窓裏で
(ツバメたちとんでおどってまどうらで)
Hirondelles en troupe
Elles volèrent, dansèrent
par-delà les vitres
Baptiste COLIN (バチスト・コラン)
Paris, France (フランス パリ)
●:審査員賞、●:みんなの一句
※日本語を第一言語としない方からの俳句について、便宜上『外国語としての日本語部門』としています。
●:審査員賞
●:みんなの一句
※日本語を第一言語としない方からの俳句について、便宜上『外国語としての日本語部門』としています。
総体的に哀愁を帯びた句が目立ちました。大人はより複雑に今を憂い、未来を案じるものです。コロナで多くの犠牲者を出したフランスでは、どうしても心は沈みがちで、表現するものも暗くなりがちでしょう。しかし暗い気持ちに暗い季語を付けたのでは、余情が生まれません。暗いテーマにはあえて明るく美しい季語を取り合わせると、救いが生まれ、より余情が生まれます。(黛まどか氏)
たいようがとおくひかってなつがきた
Le lointain soleil
illumine de ses feux
L'été est bien là
Charles BLEIN (シャルル・ブラン)
Paris, France (フランス パリ)
Seconde (高1)
セーターの画面の先生寒そうだ
(セーターのがめんのせんせいさむそうだ)
Habillé en pull
mon professeur à l’écran
avait l’air transi
Auguste CÉLÉRIER (オギュスト・セレリエ)
Paris, France (フランス パリ)
Terminale (高3)
ゆきのおとまどにききますとおいとも
Mes amis lointains
À ma fenêtre j’entends
le bruit de la neige
Sébastien (セバスチャン)
Héraut, France (フランス エロ―県)
Terminale (高3)
さむい夜コートはおってかぜうたう
(さむいよるコートはおってかぜうたう)
Une nuit glaciale
Le vent se mit à chanter
vêtu d’un manteau
Yasmine ZRIGUE (ヤスミン・ズリッグ)
Loiret, France (フランス ロワレ県)
Terminale (高3)
●:審査員賞、●:みんなの一句
※日本語を第一言語としない方からの俳句について、便宜上『外国語としての日本語部門』としています。
季語、575の韻律、切れなどのルールをしっかり守って、定型で詠んでいることにまず感銘をうけました。口語体で詠んでも575で作ると散文ではなく、ちゃんと詩になります。そしてどの句も自らの体験を通して詠んだ実感があります。もちろん俳句は文学ですから、すべてが事実である必要はありません。しかしどこかで体験したことを「種」に詩に昇華させるのです。その「種」が一句一句にありました。(黛まどか氏)
あきがきたくりをさがしにもりへいく
L’automne est venu
Pour récolter des châtaignes
je vais dans les bois
パルミエリ藤野アメリ (Amélie PALMIERI FUJINO)
Essonne, France (フランス エッソンヌ県)
CM2 (小5)
夏の夜光をうつすソーヌ川
(なつのよるひかりをうつすソーヌがわ)
La nuit estivale
Le reflet de la lumière
flotte sur la Saône
ロズ絵真 (Emma ROZ)
Essonne, France (フランス エッソンヌ県)
CM2 (小5)
秋の空友だちみんなつながってる
(あきのそらともだちみんなつながってる)
Le ciel de l’automne
Nous gardons bien le contact
de tous nos amis
シラネ-ベルトラン・ルカ (Lucas SHIRANE-BERTRAND)
日本 京都府 (Kyoto, Japon)
CM2 (小5)
●:審査員賞、●:みんなの一句
※日本語を第一言語としない方からの俳句について、便宜上『外国語としての日本語部門』としています。
●:審査員賞
●:みんなの一句
※日本語を第一言語としない方からの俳句について、便宜上『外国語としての日本語部門』としています。
日本語を第一言語としない小学生以下の子供にとって、世界一短い定型詩を作るのはどんなに難しいことでしょう。しかしこれらの句を見ていると、力みがなく、自然と俳句が紡がれているように見えます。秋の空の広がりにその先に暮らす友達を思い、ともしびを川面に映す夏の夜のきらめきを楽しみ、秋の訪れに森へ行くことを楽しみにする暮らし。豊かな感受性を俳句に見事に表現していて驚きました。(黛まどか氏)
俳句は、作者氏名のアルファベット・50音順で掲載しています。
主催:パリ日本文化会館
協力:パリ日本文化会館・日本友の会
審査:黛まどか(俳人)、Nicolas Grenier (詩人)、Christian Faure (紫木蘭俳句会 同人)、川崎康輔(Association “Haikuman 575”)
俳句翻訳:Christian Faure、川崎康輔
イラスト : Anouck Boisrobert
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